社会運動としての東大全共闘 第4分冊 第4章 戦後の資本主義化の進行と持続
(著) 高口英茂
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―資本主義を超え、そしてソ連型社会主義を超えるために―
近代資本主義が生みだす社会矛盾に立ち向かう社会運動の流れの中で、「予示的運動」に近いところに立ち異彩を放っていた東大全共闘運動。「ソ連型社会主義」が失敗に終わり、近代資本主義に対峙する新たな運動が模索される中で、今後の社会運動の原理として発展しうる予示的原理を内包していた東大全共闘運動は、今あらためて社会運動の視点から総括されなければならない。全5巻に分けて東大全共闘運動に迫るシリーズ、第4巻の本書ではソ連社会主義を農業との関係で総括しながら、レーニンの社会主義構想や中国文化大革命、東欧諸国の事例から社会主義の失敗について検討する。併せて20世紀における資本主義を金融、覇権、リベラリズムなど様々な角度から見ていく。
『社会運動としての東大全共闘』は5分冊となっております。
[目次]
第4章 戦後の資本主義化の進行と持続
第一節 社会主義国家建設の失敗と社会主義運動の沈滞化
1.ネックであり続けた旧ソ連の農業
「ソ連の社会主義体制」の終焉
新自由主義の時代に、日欧の独自路線経済システムの不如意が鮮明に
社会主義否定の「1991年常識」の定着
社会主義は“合理的な”価格設定が不可能なのか(社会主義経済計算論争の意味)
計画・統制は経済的に非効率であるとは必ずしもいえないのではあるが……
官僚による計画・統制経済は人びとの主体的な社会形成参加活動に反する
金銭的インセンティブ付与を軸にした賃金政策が成長を結果するというのはチャチな幻想
スターリンが強行した農業集団化は工業化資本捻出のため
アメリカ合衆国でも、農業経営の大規模化は曲がり角へ?
2.中国文化大革命と提起された分業の克服
反帝国主義人民戦争として農業協同化を伴って進行した中国革命
スターリン批判・ハンガリー革命が中国共産党に及ぼした衝撃
分業の廃棄を提起した「大躍進政策」の発動
分業による生産性の向上??
マルクスの大工場内分業論と社会的分業論
こんにちの「分業」;マルクスの労農分業論は未完
大躍進政策の失敗の巻き返しから文化大革命へ
文化大革命は毛沢東の延安社会主義固執と紅衛兵の奪権闘争の絡む毛沢東後継争い
米中国交回復は文化大革命の失敗・敗北に踏まえた転換
文化大革命のこんにち的意義
3.さまざまに試みられたがいずれも不如意の社会主義構想
ユーゴスラビアの自主管理市場社会主義
アソシエーショニズムによる社会主義運動の再生論
「(生産者)協同組合」には過度に期待しないでそのまま暖かく見守ることにしたい
短期的すぎて評価判断の材料が乏しい「プラハの春」
失望が大きかった社会主義東欧の「市民革命」
「市場社会主義」は資本主義とどこが違うのか
失敗は社会主義国家のみならず先進資本主義国家における社会主義運動でも発生
第二節 金融資本の天下(金融支配制資本主義の時代)
1.バブルの発生と崩壊を必然とする資本主義
「恐慌現象」の発生;資本主義では恐慌の発生は不可避だがそれでも資本主義は存続
「恐慌現象発生」は「バブル経済崩壊」と同じもの
資本主義経済は金融国家によるシステムの整備とともに
近代金融は国債発行を引き金にするバブルの発生と崩壊とともに始まる
恐慌と通貨価値:第一次大戦後のドイツは1兆倍のインフレに
紙幣が発行される経済の摩訶不思議
恐慌突入・バブル崩壊が資本主義を延命させる
「バブルの覇者」がグローバル金融の覇権状態をもたらす
2.金融支配制資本主義の時代へ
1997年のアジア通貨危機もこんにちを結果している
情報化とバブルは共・進化
今後の世界=経済でもバブルの発生・破裂の繰り返しか?
一方、バブルの発生とその破裂は格差の拡大を結果
金融資本主導グローバリズムへ;帝国主義時代から金融支配制資本主義の時代へ
第三節 リベラリズムのたそがれ(現代の正義、倫理、私有、および覇権)
1.リベラリズムの歴史伝統を否定する新自由主義の席巻
ヤルタ=ポツダム体制とリベラル・デモクラシー主導の確立
政治理論としてのリベラル・デモクラシー蘇生の試みとしての『正義論』の登場
リベラリズムにおける「平等」論の深化
正義論・倫理・道徳論・善の存在論の往還;アリストテレスを手掛かりに
80年代以降、リベラリズム否定の“自由主義”である「新自由主義」が世界を席巻
完全に失われた「欧米普遍主義」への信頼
2.こんにちの世界に普遍する「価値観」とは何か
「普遍的な価値」は存在するのか?
「私有制」を超えて普遍的価値とすべき自然環境
階級横断的ジオカルチュアがなくなった段階での「覇権」
第四節 「金融支配制資本主義」の中での世界
1.急進イスラム主義運動の衝撃
多くの人々(消費者)が推進してきた面もある「グローバリゼーション」
時間区分上の21世紀の最初の衝撃としての2001年9.11のアタック
民主主義権・人権否定の市場経済至上主義・固有文化否定への反発は非先進国で激しい
資源豊富なコンゴ民主共和国地域の混乱例は最貧国の悲惨さの典型
イスラム主義の拡大(人間社会は宗教の対立を克服できるのか)
資本主義世界=経済を破壊しようとする急進イスラム主義運動の攻撃
イスラム教の「宗教化」を促す世界への転換
2.アメリカの覇権状態は続くのだが……
中国が覇権国になることは短中期的にはない
1990年代前後の中国における人権論の深化と「社会主義的人権」論
中国向け、「人民経済」を土台とした「社会主義的民主主義」の構想
動揺を繰り返す「覇権国」アメリカの世界戦略
資本主義経済が順調な限り「覇権」のある状況は存続?
皇帝のいない〈帝国〉としてのEU
時代からずれ、ピンボケだった日本の「価値観外交」
東欧に明るさはいつ戻るのだろうか
3.動揺収まらない世界
「強権志向国家主義的極右」現象の突出と“ナショナリズムのようなもの”の動き
世界の脅威、アメリカの「白人ナショナリズム」
ネットが成長を手助けした日本の「新々右翼」
東北アジアでの「愛国主義」の盛り上がりは国家主導型「国家主義」
世界に広がるナショナリズムの動きとその鎮静化手段の考察
東アジアが世界の火薬庫になるおそれがあるなかアメリカの覇権がその抑止力に?
アメリカ国内の「倫理」の崩壊
「国際公益」「地球公共財」のゆくえ
第五節 資本主義の「賞味期限」
1.無限の成長を存続要件とする資本主義
資本主義に賞味期限はあるのか
「商品生活」となった「人間の物質生活」の多元・多様性が“階級闘争”を弱める
「資本蓄積の矛盾」「政治的正統性の矛盾」「地政文化的な課題に含まれる矛盾」
資本主義的経済成長持続への疑問
いつまでも成長し続けられるわけではないと感じ始めた世界の人々
2.インパクトあるイノベーションを励起できる可能性につく疑問符
17世紀に西欧資本主義世界=世界経済の凝縮の前例
市場の均衡機能に依拠する主流派経済学の権威失墜
科学技術の未来を考えるための科学技術の来歴確認
資本主義的に編成されてきた科学技術による未来
[担当からのコメント]
環境問題や労働問題、貧富の格差など現代の私たちが抱える喫緊の課題の中には、少なからず近代資本主義の矛盾が含まれています。これらの難問を超えるためには今なにが必要なのか、本書はそうした思索をするうえでも示唆に富む内容となっています。ぜひご一読ください。
[著者略歴]
高口英茂(たかぐち ひでしげ)
1945年 北海道帯広市生まれ。1968年 東大全共闘運動参画。1981年(株)クリオ設立、代表取締役。2011年 病を得て離職。2016年『東大全共闘と社会主義』(全5巻)を(株)芙蓉書房出版より刊行。
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