生命科学を学ぶ人におくる大学基礎生物学
(著) 塩川光一郎
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[商品について]
――細胞のエネルギー代謝反応のなかで最も重要で、ミトコンドリア内部で起こる反応系列は次のどれでしょうか。
1.光合成、2.TCAサイクル、3.PCDAサイクル
正解は、本書「第Ⅲ部 エネルギー代謝と個体の維持」をご覧ください。
クローン技術やES細胞など急速な進歩を遂げている現代の生命科学は、もはや生命の神秘を単純に問うロマンチックな時代を脱し、確実な技術としての工学的な地位を手に入れようとしています。本書は、そうした観点から、専攻する学問分野にかかわらず幅広く学生諸君に生命科学への興味を持っていただくために、生命の諸要素からバイオテクノロジーまで、ときに先端の研究内容にも触れながら分かりやすく解説した生物学の基礎テキストです。肩ひじをはらず読み物風に読み進めることができる内容となっており、学部生はもちろん独学で生命科学の基礎知識を得たい方にもお薦めの一書です。
[目次]
ケンブリッジ大学ガードン研究所所長ガードン教授から 「まえがき」
帝京大学の冲永佳史学長・理事長から 「まえがき」
はじめに
第Ⅰ部 生命の諸要素
1 生物と無生物の違い
2 生物個体のなりたち
3 生命を支える分子
(1)水
(2)糖質(糖類)
(3)脂質
(4)タンパク質
(5)DNA(デオキシリボ核酸)
(6)RNA(リボ核酸)
(7)ポリアミン
(8)微量で強力な作用をもつ生理活性物質
4 遺伝子の実体としてのDNA
(1)DNAによる形質転換
(2)ファージの増殖実験
(3)ファージを用いる形質導入実験
5 遺伝子が規定する酵素――1遺伝子1酵素説
(1)アカパンカビのアミノ酸代謝異常
(2)ヒトのアミノ酸代謝異常
(3)ヒトの糖代謝異常
6 遺伝子DNAの情報の解読
(1)暗号解読表
(2)mRNAの遺伝暗号のタンパク質への翻訳
7 DNAの複製
(1)DNAの半保存的複製
(2)DNAポリメラーゼの働き
8 生命の最小単位としての細胞
(1)細胞説の確立
(2)近代的な細胞の概念の確立
(3)種々の細胞の大きさ
(4)細胞によって異なる形と役割
9 細胞小器官の構造と機能
(1)細胞膜
(2)核
(3)核小体
(4)ミトコンドリア
(5)小胞体
(6)ゴルジ体
(7)リソソーム
(8)ペルオキシソーム
(9)中心体
(10)色素体
(11)植物細胞に見られる後形質
10 細胞の骨格
(1)微小管
(2)微小繊維
(3)中間径繊維
11 細胞の分裂
(1)体細胞分裂
(2)減数分裂
(3)細胞周期
第Ⅱ部 生命の連続性と遺伝子
1 ニワトリが先か卵が先か――遺伝子を混ぜ合わせる工夫
(1)クラミドモナスのつくる群体
(2)ボルボックスの生活
(3)緊急事態でボルボックスが採用する有性生殖方式
2 単細胞生物から多細胞生物へ
(1)単細胞真核生物の核の働き
(2)単細胞生物の分化と遺伝子発現
(3)単細胞と多細胞の両方の生活を行う粘菌
3 遺伝――カエルの子はカエル――の仕組み
(1)メンデルの法則
(2)いろいろな遺伝の法則
(3)遺伝子の連鎖と組換え
(4)性染色体と伴性遺伝および限性遺伝
(5)突然変異――トンビがタカを産む話
4 配偶子――時間の壁を超えて飛ぶタイムマシン
(1)精子形成
(2)卵形成
(3)電顕像でみる卵母細胞核の転写活性
(4)卵の成熟
5 受精
(1)先体反応から核の融合まで
(2)多精拒否の工夫
(3)受精に伴う細胞質の再配列
(4)受精と代謝活性の変化
(5)受精とDNA合成およびタンパク質合成
6 個体の発生――卵から親まで
(1)発生の始まり――卵割
(2)胞胚形成とMBT(中期胞胚変移)
(3)原腸胚(嚢胚)形成から神経胚形成へ
(4)発生のメカニズムの研究
(5)昆虫の発生――ホルモンとパフ
(6)変態
(7)植物の配偶子形成と重複受精
第Ⅲ部 エネルギー代謝と個体の維持
1 酵素――生命活動を支える生きた触媒
(1)酵素の一般的特徴
(2)酵素反応のキネティックス
(3)酵素の種類
(4)酵素反応の特異性と酵素の特異的阻害剤
2 エネルギーの通貨,ATP
3 光合成――生命系を支える太陽エネルギーの固定
(1)光合成の明反応
(2)光合成の暗反応
4 呼吸――グルコースからの太陽エネルギーの取り出し
(1)解糖系
(2)TCAサイクル
(3)電子伝達系
5 ホメオスタシス――個体の恒常性の維持
(1)体液の恒常性
(2)自律神経系と内分泌系
(3)生体防御
6 生物個体と外界とのかかわり ――刺激の受容と反応
(1)刺激の受容器と効果器
(2)受容器と効果器を連結する神経系
(3)中枢としての脳と脊髄の働き
(4)動物の行動
付録 バイオテクノロジー
1 遺伝子工学的アプローチ
(1)遺伝子ライブラリー作製とクローニング
[担当からのコメント]
生物とは何か。その仕組みや原理と真正面から向き合うと、この問いの持つ奥深さが見えてきます。ダーウィンの進化論が学問だけでなく人の考え方に大きな変革をもたらしたように、生命科学は現代の私たちの生き方にも大きな影響をもたらす学問分野になっているのだと改めて感じます。本書を通じて、そんな現代生物学の面白さを味わっていただければ嬉しく思います。
[著者プロフィール]
塩川光一郎(しおかわ こういちろう)
略 歴:1941年福岡県に生れる.1963年九州大学理学部生物学科卒業,1968年同大学院理学研究科生物学専攻博士課程修了.日本学術振興会奨励研究員(九州大学),武田薬品工業株式会社生物研究所,ニューヨーク血液センター研究所(細胞生物学部門),九州大学助手(理学部発生生物学教室),同助教授を経て,1989年4月より東京大学教授(理学部動物学教室),1993年4月より同大学院理学系研究科生物科学専攻教授.2001年3月に定年退官.2001年第1薬科大学講師,2002年第一福祉大学通信教育部講師,2003年帝京大学理学部バイオサイエンス学科教授,2003年中国北京・中央民族大学客員教授,2008年帝京大学医療技術学部柔道整復学科学科長,2009年中国大連・大連医科大学客員教授,2012年帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻主任教授,2014年帝京大学退職,2014年帝京大学大学院非常勤講師,2014年福岡医療専門学校講師,2015年帝京大学理工学部客員教授.1981年,日本動物学会賞受賞(カエル胚におけるリボソームRNA合成とその調節機構の研究/山名清隆教授と).
現 在:帝京大学・理工学部客員教授,アジア日本語学院長,福岡医療専門学校講師(生理学担当),理学博士,東京大学名誉教授
近 況:2002年8月イギリスのケンブリッジ大学で行われた第9回アフリカツメガエル会議に出席.アルドラーゼ遺伝子につき発表.血液・心臓形成の転写因子等に関するセッションで座長.その後,バルセロナ,モンペリエ,ローザンヌを訪問,アルプスのふもとレザンではKLAS高校で英語の授業を行うなど,古い友達の間をまわった.ケンブリッジ大学では,イゴール・ダーウィッド座長の最初のセッションで,MBT(中期胞胚変移)前の胚にも転写が起こるという私の九大時代の実験結果と同じ結果が,ピーター・クラインより2つのノーダル関連遺伝子で示され,私が1987年ころより一人で主張してきたMBT前のアフリカツメガエル胚における遺伝子発現の存在の正しさが,大衆的に認められ永年の胸のつかえがとれた思いがした.2008年4月1日より宇都宮の帝京大学理工学部のキャンパス内に医療技術学部の第6番目の学科として柔道整復学科を立ち上げる仕事も始めることになった.細胞の気持の分かる柔道整復師を育てるように努力して今日に至る.その間2016年の第16回アフリカツメガエル国際会議(ギリシャ・クレタ島)で過去のすべての会議に32年間連続出席し論文発表を続けた世界で唯一人の研究者ということで表彰された.現在は福岡の自宅を本拠地として小,中,高校の地方の青少年教育のため理科のボランティア教室を主な仕事にして活動している.
主要著書:『ツメガエル卵の分子生物学』(東京大学出版会,1985),『分子発生学』(東京大学出版会,1990),『生命科学を学ぶ人のための大学基礎生物学』(共立出版,2002),『生理学』(オーム社,2010),『ガードン卿:その研究と人柄の魅力』(理工学社,2014)など.
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