無理をせず、無理をさせずに摂食障害を治す――強制的な行動療法から消極的精神療法へ
(著) 柴田明彦
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―人は治されるのではなく自ら治っていく。それは摂食障害でも変わらない―
医療保護入院によって患者の行動を抑制・制限しながら、治療の進捗に応じて制限を解除していくというような強制的な行動療法が、摂食障害の治療現場では行われている。しかしこうした治療は患者の激しい抵抗を生むだけでなく、将来の自立への芽を摘んでしまう危険を孕んでいる。そうした視点のもと、本書では摂食障害について「消極的精神療法」の活用を訴えてきた著者が、その治療の実際から症例、長所と短所まで、「消極的精神療法」の詳細を分かりやすく解説したガイドブックである。
[目次]
序 章 なぜ消極的精神療法なのか
第Ⅰ章 消極的精神療法とは
1 食行動ややせ願望を積極的に扱わない
2 体重の目標を設定しない
3 積極的な栄養補給は行わない
4 自傷行為や自殺企図を積極的に取り上げない
5 入院治療はなるべく最小限に留める
6 深層心理への介入を行わない
7 治療者は、治療全般に対して受動的な姿勢で臨む
第Ⅱ章 消極的精神療法の実際
1 初診時
(1) 初診時に理解すること
患者自身が何を問題だと思っているか
非言語と言語の両面から病態をみる
受診に至るまでと受診歴
治療抵抗の程度
(2) 初診時の説明と処方
診断基準は用いない
治療について
症状の経過について
薬物の処方について
2 治療初期
(1) 治療初期の経過
不食・拒食から過食へ
依存欲求と攻撃性の出現
(2) 治療初期の基本的対応
失われた感覚を取り戻す
依存と攻撃から距離をとる
3 治療中期
(1) 治療中期の経過
不安の増大
自傷行為
自殺企図
対人不信と自己否定
他者への攻撃
(2) 治療中期の基本的対応
苦しさを言葉で表現することを促す
淡々とした対応に留める
攻撃性を自立への第一歩ととらえる
社会復帰を急がない
4 治療後期
(1) 治療後期の経過
社会復帰前の苦しさ
社会復帰への試行錯誤
(2) 治療後期の基本的対応
患者の不安と焦燥を理解する
小さな成功体験を拾いあげる
減薬は徐々に行う
終結の目安としての自己評価
第Ⅲ章 症例呈示と消極的精神療法の適応
1 軽症例
(1) 症例の経過
症例A 初診時一七歳 女性
(2) 症例Aの検討
(3) 軽症例の治療
自力での回復を手助けする
不安の軽減
2 中等症例
(1) 症例の経過
症例B 初診時一五歳 女性
(2) 症例Bの検討
(3) 中等症例の治療
入院期間の短縮
治療者と家族の不安
3 重症例
(1) 症例の経過
症例C 初診時一七歳 女性
(2) 症例Cの検討
(3) 重症例の治療
治療期間の長期化
治りたい気持ちと治りたくない気持ち
治りたいと思うまで「待つ」
4 消極的精神療法の長所と短所
(1) 消極的精神療法の長所
①一回の診療が短時間ですむ
②長期間の入院治療を要しない
③鼻腔栄養やIVHなどの厳重な身体管理を必要としない
④治療方針をめぐる、主治医‐患者間の軋轢が少ない
⑤病気が改善して行く際の、患者の達成感が大きい
⑥患者が主治医に頼らず、自立して行きやすい
(2) 消極的精神療法の短所
①主治医の不安感が強くなる
②身体状態の悪化や繰り返される行動化に、じっと耐えなければならない
③症状が軽減する際に生じる患者の不安感を、肩代わりしなければならない
④短期間の入院治療が、何度も繰り返されることがある
⑤患者自身が良くなりたいと思わなければ、同様の状態が延々と続く
⑥主治医に頼りたい、方針を示してほしいと希望する患者には向かない
終 章 文化と摂食障害
文 献
あとがき
著者略歴
[担当からのコメント]
本書は摂食障害の治療に関する本ですが、ダイエットや現代人の行動規範についても非常に示唆に富む考察がされています。その意味では摂食障害に悩む方はもちろん、健康を数字で判断してしまいがちな私たちにとっても参考になる作品です。ぜひご一読ください。
[著者略歴]
柴田明彦(しばた あきひこ)
1961年 愛知県生まれ
1986年 岐阜大学医学部卒業
岐阜大学精神神経科助手を経て、
現 職 岐阜市民病院精神科部長兼デイケアセンター長 医学博士
著 書 『統合失調症はどこから来てどこに行くのか――宗教と文化からその病理をひもとく』(星和書店、2011)、『父親殺害――フロイトと原罪の系譜』(批評社、2012)
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