欲・体験・失敗の子育て学──「やってみたい」が人類を進化させてきた

(著) 竹村公彦

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作品詳細

[商品について]
ーこどもに必要以上の口出ししてませんか?ー
他の生物に比べ、人類がここまで進化を遂げることができたのはどうしてなのでしょうか。一つには、人の祖先には「本能」とは別の「欲」があったからだと著者は語ります。もっと知りたい、もっと手に入れたい、という欲望こそが、人類を他の生物から一歩も二歩もリードさせたのでした。そして、この「欲」が大事だということは、実はこどもの成長にも言えることなのです。

本書は、人の進化の歴史や近年の社会状況などを検証したうえで、人間がよりよく成長するためのポイントに迫った1冊です。「こどものためを思って」という動機から親や周りの大人が取りがちな行動は、本当に正しいものばかりなのでしょうか。
これまでこどもに関する多数の書籍を出版してきた著者が、「欲」というユニークな視点から、子育て・教育をわかりやすく解説します。

[目次]
はじめに
(一)こどもとは
(二)人の本性と教育
(三)近年の社会状況
(四)人の能力
(五)人と社会
(六)まとめ
おわりに

[担当からのコメント]
書名には「子育て」という言葉があるものの、さまざまな角度から人の「成長」に着目した本書。こどもたちの教育や、会社での人材育成に携わっている方などにも本書をお読みいただき、人や社会が成長、発展していくということの本質に迫っていただければうれしく思います。


[書評]
「欲」は悪いものじゃない

現代社会の処方箋


人と他の生き物を分けているものは何か。その最大の要素は「欲」である。欲があるから、社会は発展できるのだ。
そう著者は主張する。
「足るを知れ」という風潮もある中、本書は欲の必要性を説く。


「欲」への正しい理解と付き合い方が発展を生む
『欲・体験・失敗の子育て学』は、人間の「欲」を深く掘り下げ、その本質と意義を問いかける一冊だ。著者は人間とその他の生き物の違いは、私たちの祖先が、本能にわずかだけ本能とは別の「欲」を備えていたことだと主張する。
 この「欲」こそが人間の特徴であり、人間の心や文化を形成し、人類の進化と発達に欠かせない役割を果たしてきたというのだ。
 本書の特徴は、人間の「欲」を否定的なものとしてとらえるのではなく、肯定的なものとしてとらえている点にある。古くはピラミッドの建設、21世紀に入ってからは小惑星イトカワの探査機はやぶさや、iPS細胞など。これらの業績は人類がとてつもない目標を思いつき、それを実現させようという「欲」が生み出したものに違いない。
 宇宙開発や基礎研究など実用段階に至っていないものは、その意義が問われることも多い。しかし実用化されている技術も、元をたどれば発明者の単純な動機から始まっているものである。「見たい」「知りたい」というシンプルな「欲」ほど、人を突き動かすものはないのだ。
 ところが、「欲」は必ずしも良いものとは限らない。「欲」が心の持ちようによって、好ましくない方向に向かったり、抑制されたりすることを著者は指摘する。それが、人間の成長や幸福を阻害することもあると警鐘を鳴らす。
 特に重要なのは、子育てや教育の場面だ。「欲」を否定したり制限したりすることは、子どもの人格や人間性を損なうと強く批判する。
 著者によると、人の脳の進化や成長や発達をもたらすのは、愛情と愛情に基づく養育行為だという。日々の生活の中で子どもの人格をしっかり認めて接することが、子どもの意欲や活力を育てることになる。
 逆に子どもの人格を否定した扱いをすることは、子どもにまつわる様々な問題の根源になりうる。それが成人後に人間性の欠損を生み、社会のさまざまな問題を生んでいるのだ、と。

知識の活用は体験と心のあり方次第
 さらに本書は、人にとって大切なのは知識よりも体験であることを強調している。
「知識は書物や事物として伝承可能だが、人間性など、人の心や性格にかかわる能力は各人それぞれが誕生以降の日々の生活で成長させ、発達させて獲得しなければ備えられず、自然に伝承されるようなものではない」
 現代のような情報社会では体験なしに、情報を知識として取り込めると思いがちだ。しかし理解するための拠り所となる体験がなければ、応用の効かない知識にしかならず、役立つ情報にはなりえない。
 本書は人間の「欲」に対する新しい視点と理解を提供するとともに、人間の欲を肯定的に捉え、発揮させることの重要性を訴えっている。何かにつけ「人に迷惑をかけてはいけない」と言われて育てられた読者にとって、「欲」が人類の進化と発達の原動力であり、幸福の条件であるという本書のメッセージは心に響くだろう。
 人間の「欲」を理解し、正しく向き合うことで、人間らしい生き方を見つけるヒントが得られるかもしれない。

文:筒井永英

[著者プロフィール]
竹村 公彦(たけむら・きみひこ)
昭和11年生まれ。
長野県飯田市出身。
昭和36年、名城大学卒業。以来、2003年3月まで同大学にて教鞭をとる。
著書に『子どもはこうして育てよう』(2002年)「かくて学校から人材が輩出する』(2005年、どちらも文芸社刊)がある。

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