日本の犯罪の姿 : 白書からみる犯罪の実相と社会復帰の可能性

(著) 宮野彬

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作品詳細

大学で刑事学の科目を担当するようになってからかなりの年数が経つ。刑法や刑事訴訟法の場合には、講義を進めてゆく順序や範囲についての大まかなレールがひかれているために、教えるほうも教わるほうも、それほど苦労しないですむ。ところが、刑事学にあっては、そのレールが見当らない。まず、科目の名称からして、このほかに刑事政策や犯罪学などといったものがある。教える事柄に関しては、教える者に比較的多くの裁量の余地が認められることになる、といえよう。それでも、目安がないわけではない。大まかに分ければ、犯罪の条件と犯罪者の処遇になろう。多少細かく分類すれば、これに刑事学の学問的な性格の説明や犯罪の予防などが加わることになる、のである。これとともに、その内容が多岐に分れ、しかも広いことに注意しなければならない。そこで、法律的な知識だけでなく、経済的、社会的、歴史的、統計的、精神医学的などの幅広いそれが要求される。このような事情にありながら、講義時間に関しては、通年の科目とはいいながら、一週間に一回しかない。そのために、話の焦点をかなり絞り込まないと散漫になるおそれが出てくる。刑法との関係にも触れておきたい。刑法に興味をもつ学生は多い。数ある法律の中でも身近でわかりやすい、という点がうけるのかもしれない。しかし、その中味は、現実の犯罪ではなく、仮定の犯罪を前提にした理論的な事柄で占められている。刑法典が定める犯罪の中には、頻繁に繰り返されるものが少なくないが、その一方においては、これまで一度も日の目をみたことのない犯罪もある。そこで、理論とは別に、犯罪現象のありのままの姿を知ってもらいたいという気持が、常にあった。つまり、理論と実際との違いである。これは刑法上の犯罪だけではなく、特別法上の犯罪についてもいえる。(本文より)

【著者プロフィール】
宮野 彬(みやの・あきら)
1933年 東京に生まれる
1957年 中央大学法学部卒業
1963年 東京大学大学院博士課程修了
    鹿児島大学法文学部講師・助教授を経て,
現 在 明治学院大学法学部教授
主 著 『安楽死』(日経新書)日本経済新聞社,1976年
    『刑事訴訟法100問』(共著)蒼文社,1978年
    『刑法入門』(共著)(有斐閣新書)有斐閣,1979年
    『安楽死から尊厳死へ』弘文堂,1984年
    『刑法各論』(共著)青林書院,1984年
    『犯罪の現代史』三嶺書房,1986年,増補版,1994年
    『刑法の社会学』三嶺書房,1989年
    『刑事和解と刑事仲裁』信山社,1990年
    『裁判のテレビ中継を』近代文芸社,1993年

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