探究する詩歌――和漢詩歌源流考
(著) 溝口貞彦
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――片歌(五・七・七)を2首連ねた和歌以前の定型歌は次のどれでしょうか。
1.旋頭歌、2.久米歌、3.長歌
正解は本書「第四章 和歌の発生」をご覧ください。
「君が代」ではなぜ小さい石(さざれ石)が大きい岩(巌)となるのか、和歌の形式(五七五調)は古代歌謡の発展型なのか漢詩の影なのか、漢詩における五言詩は「いかに」発生しまた「なぜ」発生したのか――日本文学または中国文学史の中にある重要な問いに広い視野で果敢に取り組んだ意欲的な論考集。
[目次]
序
第一章 「君が代」考
一 「さざれ石の巖となりて」について
1 問題の所在
(1) 一つの疑問
(2) 元歌とその解釈
2 平安人の考え方
(1) 『古今集』の序から
(2) 『梁塵秘抄』から
3 歌詩の思想的背景
(1) 日本古代に「石成長の信仰」はあったか
(2) 古代中国の「土を積む」という思想
(3) 仏教思想
(4) 「さざれ石の巖となりて」の思想的背景
二 この歌の基本的性格
1 挽歌と賀歌
2 用語の検討
(1) 「巖」の意味――死の象徴
(2) 「さざれ石」の意味
(3) 「苔生す」――再生の象徴
(4) 「我君は」の歌の本歌
3 蓬萊山思想との結びつき
三 その後の「君が代」をめぐる動き
第二章 「君が代」九州王朝讃歌説批判―志賀海神社の神楽歌に寄せて―
序――志賀島にて
一 「君が代」九州王朝讃歌説の特徴と問題
1 古田説の概要
2 「君が代」博多地方原産論について――古田説の問題点(その一)
3 「君が代は千代に八千代に」をどう解釈するか――古田説の問題点(その二)
4 「八千代」の語は九州王朝時代に存したか――古田説の問題点(その三)
二 志賀海神社神楽歌の「君が代」について
1 志賀海神社の神楽歌
2 志賀海神社の「君が代」は『古今集』より古いか――古田説の問題点(その四)
3 「祭」の誤解――古田説の問題点(その五)
4 神霊の里帰り――古田説の問題点(その六)
5 「鯛釣る翁」=祖先神磯良の登場――古田説の問題点(その七)
6 阿曇磯良(あづみのいそら)
7 「君が代」九州王朝讃歌説批判――古田説の問題点(その八)
三 古代阿曇氏(21)
史実認識の誤り――古田説の問題点(その九)
四 橘守部の見た「聖」と「性」
まとめ
(A) 鼎談を終えて(「君が代」九州王朝讃歌説批判再論)
序
1 和歌弥生時代発生論等について
2 「君が代」九州王朝讃歌説について
結び
(B) 鼎談を終えて
第三章 阿倍仲麻呂の歌―古田武彦説批判―
一 問題の所在――古田説の要点
二 「天の原ふり放け見れば」について
1 古田「天の原」解釈は成立するか――古田説の問題点(その一)
(1) 「天の原遺跡」は、仲麻呂の時代にあったか
(2) 古田「天の原」解釈は一般性をもつか
2 「ふり放け見れば」の誤解――古田説の問題点(その二)
三 「三笠山の月」について
1 三笠山は低いか――古田説の問題点(その三)
(1) 天皇の権威の象徴としての三笠山
(2) 藤原氏の権威の象徴としての春日・三笠山
2 三笠山に月は昇らないか――古田説の問題点(その四)
3 三笠山の「雲」と「恋」――古田説の問題点(その五)
[補論] 「春日なる三笠の山」に関する成句・類歌――古田説の問題点(その六)
1 「大和なる三笠の山」という成句はあるか
2 筑紫の「三笠山」を歌った類歌はあるか
四 阿倍仲麻呂について
1 仲麻呂の故郷は筑紫・太宰府か――古田説の問題点(その七)
2 仲麻呂と三笠山
五 遣唐使のルートについて
1 仲麻呂は壱岐を通ったか――古田説の問題点(その八)
2 仲麻呂は「明州で歌を詠んだ」か――『古今集』および古田説の問題点
六 「天の原」の歌は仲麻呂の作か――古田説および定説の問題点
1 「天の原」の歌をめぐる謎
2 仲麻呂の歌を伝える資料
(1) 『土左日記』から
(2)『今昔物語集』から
3 「天の原」の歌についての私見
(1) 「天の原」の歌は後世の作
(2) 「天の原」の歌の実の作者
まとめ
第四章 和歌の発生について
一 問題の所在
二 古代歌謡から定型歌への展開
1 古代歌謡における音数の増加
(1) リフレイン
(2) 漢字の伝来
(3) 実詞と虚詞
2 五音の成立
(1) 熟語+助詞
(2) 枕詞
3 七音の形成
(1) 七音の形成
(2) 七音の慣用句
4 二~三句の決まり文句
(1) 二句の決まり文句
(2) 三句の決まり文句
三 片歌と旋頭歌
1 片歌
2 旋頭歌
四 久米歌の検討
1 久米氏と久米歌
(1) 古代久米氏の興亡
(2) 久米歌作成の時期
2 久米歌の音数律
(1) 久米歌六首
(2) 歌の音構成
(3) 短句と長句の組合せ
五 漢詩の影響
六 和歌の成立
1 定型歌の時代へ
2 長歌から和歌への移行
3 和歌の成立時期
4 反歌の成立
5 歌のやりとり
[補論] 万葉初期の歌について
1 有間皇子の自傷歌
2 大津皇子の辞世の歌
3 斉明天皇の歌
4 志貴皇子の歌
まとめ
第五章 漢詩・五言詩の発生について
一 問題の所在
二 五言詩に先行する詩型
1 「三字句+助字+三字句」の詩型
2 民歌の流れ
三 五言詩発生の過程
1 五字句を多く含む不定型詩(前史)
2 五字句を多く含む不定型詩(前漢中期以後)
3 「重言+三字句」の形
四 初期の五言詩(古詩)の展開
1 民歌的詩歌
2 倫理的詩歌
3 抒情的詩歌
(1) 「古詩十九首(其一)」
(2) 「飲馬長城窟行」
(3) 陳琳「飲馬長城窟行一首」
4 「別離」の社会的背景
五 単音節から二音節への移行
1 『説文解字』から
2 詩歌に表れた植物の名称
3 S+V+Oの表現
後記
著者略歴
[担当からのコメント]
学生時代の記憶から古典=つまらないと思っていませんか。いやいや、古典って実はとっても面白いものなんです。本書は、知れば知るほど分かれば分かるほど楽しくなる、そんな古典の世界を体験したい方にお薦めの一冊です。専門的な内容も含まれますが、日本人ならよく知っている「君が代」の論考だけでも読む価値ありです。
[著者略歴]
溝口 貞彦(みぞぐち・さだひこ)
昭和13年 5月2日生
昭和37年 東京大学教育学部教育行政学科卒業
昭和56年 東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学
平成元年 二松学舎大学教授 現在にいたる。
著書 『中国の教育』(1978、日中出版)ほか。
論文 『陶行知論争』(『東京大学教育学部紀要』第16巻、1977)ほか多数。
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