増補「山びこ学校」のゆくえ : 戦後日本の教育思想を問い直す

(著) 奥平康照

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作品詳細

[商品について]
――思想家・鶴見俊輔は『山びこ学校』の実践の方法を何と評価したでしょうか。
1.マルクス主義 2.プラグマティズム 3.スピノザ主義
正解は本書「第Ⅰ部 第2節 権威から自由になって、子どもたちと生きる」をご覧ください。
生活綴方の実践の記録であり、日本の教育界に大きな影響を与えた無着成恭の『山びこ学校』。本書は、日本の教育学の成果として期待されながら一般化されることのなかったその思想を振り返り、『山びこ学校』の実践が日本の教育に突きつけた課題を、勝田守一や鶴見俊輔などの思想的試みと共に明らかにする。戦後日本の民主教育と教育の未来を見つめる一書。

[目次]
序章 「山びこ学校」と戦後教育学―「山びこ学校」実践とその思想は,どこへ消えたか
第Ⅰ部 「山びこ学校」実践と無着成恭
第1章 「山びこ学校」と社会・生活実践主体づくりの教育
第1節 「山びこ」実践に戦後日本社会の物語をみる―『山びこ学校』の大評判
作文・綴方の流行と『山びこ学校』
「山びこ」実践が生みだした巨大な期待
第2節 農村社会・文化の改革者から農村新制中学校の改革者へ―「山びこ学校」以前の無着成恭
権威から自由になって,子どもたちと生きる
理論や権威への不信
子ども・青年とともに村をつくる
無着と村の子どもたちの第一歩
無着は民主主義を模索する
第3節 生活綴方を社会生活実践主体づくりの方法として
生活綴方と無着の出会い
無着にとって生活綴方とは何だったのか
第4節 生活と学習の主体を育てる
生活の探究としての学習
生活探究を通して生き方を表現する
生活・学習主体としての子どもの発見
認識の主体的問題的あり方と客観的体系的あり方
「山びこ」実践の生活・学習主体形成を疑う
第5節 生活・学習主体の形成と無着の強い指導性
無着の強力な指導による生活・学習主体の形成
道徳的原則の提示と刷り込み
道徳的主体形成の必要
綴方による共同主体形成の具体的過程
第2章 「山びこ学校」理念の迷走―子ども社会の変貌と教育実践の混乱
第1節 無着のとまどい
迷う無着
明星の子どもたちと実践に困惑する無着
第2節 子ども集団の形成という実践的課題
実践の「統一」「組織化」という課題
集団づくりという実践的課題
生活綴方では,集団をつくれない
東京の子どもはつかまえどころがないバケモノ
第3節 社会と子どもの変貌と子ども理解の困難
子どもそのものの観察と学校的価値観の相対化
子どもを社会づくりの主体として
社会,学校,家庭の三教育分立論
町中子ども集団への着目
阿部子ども論は教育実践革新の手前で止まる
第4節 子ども論への関心の広がり
全生研での「現代っ子」研究への理解と警戒
子どもの社会参加権という視点―城丸章夫の現代子ども論
「現代っ子」の全国化―日本生活教育連盟の子ども調査
『おとなは敵だった』(林友三郎)の子ども論
第3章 『山びこ学校』を離れ,『続・山びこ学校』へ―「子ども」と「社会」の縮減
第1節 無着の転換―「山びこ」実践ののり越え方
教科研国語部会のテーゼに出会う
「山びこ」実践では学力不足
「山びこ」実践への無着の曖昧な評価
教科授業偏重の無着
「山びこ」実践への無着の誇り
第2節 「山びこ学校」理念の見直し
25歳になった佐藤藤三郎との対話
藤三郎と無着の発達的離脱―「山びこ」への対し方
歴史的地域的制約からの脱出と都市での実践
学び闘う生活者から専門家へ
第3節 『続・山びこ学校』という結論へ
「山びこ」生活綴方の歴史的任務完了論
学習主体化の方法
「山びこ学校」精神を堅持せよ
『続・山びこ学校』という教科作文集
教科学習と綴方とを結びつける方法
第4節 「子ども」と「社会」の60年代的把握
『続・山びこ学校』の「子ども」と「社会」
「子ども」と「社会」の縮減
教育における「子ども」と「社会」の概念更新システム―解放制教育実践システムと閉鎖制教育実践システム
第Ⅱ部 戦後日本の教育思想と生活綴方
第4章 教科指導論と生活指導論への重点移行と生活綴方の縁辺化
第1節 戦後生活綴方の隆盛
『山びこ学校』と生活綴方の教師への影響
生活綴方への教育学者たちの期待
第2節 教科指導・生活指導による生活綴方の縁辺化
国分は教科学習・教育の固有領域保守論
教科研方針は教材研究偏重へ
日本作文の会の方針転換へ
集団主義的生活指導論の急成長
生活綴方教育の縁辺化
第5章 戦後教育学と生活綴方教育の意味の探究
第1節 戦前教科研の生活主義と生活綴方理解
戦前教科研の「生活主義」
生活綴方批判と綴方教師たちの反論
第2節 戦後の教育学による生活綴方の検討
戦後教科研などにおける生活綴方の復権と評価のゆらぎ
生活綴方は教科指導と生活指導へと発展的に解消するという論
生活綴方と教科指導との二重構造実践論
授業に生活綴方の精神をとり戻す
第3節 教育全体を貫く生活綴方の方法
教育と生活の結合の方法としての生活綴方―教育の基礎となる方法(小川太郎)
生活綴方は生活指導と学習指導のどこまで食い込むか
第4節 生命の根源的自発性に依拠して,子ども・青年の目的意識性を内側から育てる(大田堯)
西堀青年学級の生活綴方
生活綴方は教科学習の基礎
生命の根源的自発性と啐啄同時
第5節 綴方による生活直視と自主的価値選択主体の形成(勝田守一)
生活綴方を日本教育の支柱に
文化伝達と文化革新,あるいは社会統制と自由・解放・批判的創造としての教育
生活という現実を直視する綴方
人的能力政策と能力主義に対抗して
第6節 目的的生活実践過程の一環としての教育・学習過程(宮坂哲文)
禅林の生活教育
教科外活動への研究関心の展開
学習指導と生活指導と生活綴方
領域としての特別教育活動から機能としての生活指導へ
人間の総合的形成の計画化
学級経営への着目
第6章 「山びこ学校」と戦後日本の社会的実践主体形成論
第1節 生活綴方と生活問題解決実践主体の思想(鶴見俊輔)
日本生まれの攻撃的プラグマティズム思想
民衆の自発的な思想運動としての生活綴方
概念づくりという課題
生活綴方的方法と日本文化の問題―共同体とのあいまいな関係
日本の思想を建て直す
第2節 社会的実践的責任主体の形成(上原専禄)
生活綴方への期待―生活を問題的に認識する
仏教と日蓮を支えとして歴史的社会的課題に取り組む
おのれの悟りよりも社会の課題解決
生活綴方は生活を問題的にとらえる
身近な生活と歴史的社会的視野とをつなぐ
国分は両輪論から綴方従属論へ
教育を越えた歴史の課題に応える教育
地域,日本,全人類の問題に立ち向かう人間の形成が国民教育
系統的教科授業への疑い
歴史的社会的主体としての人間の形成
子どもの課題関心と認識の主体的再構成
「課題化的認識」という未完の提起―主体的であることと客観的であること
第3節 生活綴方・生活記録と内発的発展論―生活と知の内発的な発展を求めて―(鶴見和子)
生活綴方は自己改造・自己教育の実践
生活綴方の社会的集団的な性質
生活記録運動への批判と運動の困難
内発的な知と生活を支える理論の探究
内発的発展論と生活綴方
生活綴方の現代教育への拡張
再び生活綴方と内発的発展論
終章 教育実践の生活課題化的構成
引用文献一覧
「山びこ学校」関係資料
初版あとがき―「山びこ」実践から生れた課題をふりかえる
著者略歴

[担当からのコメント]
現在でも賛否両論ある「山びこ学校」の教育ですが、それぞれの時代の教育を考えるための試金石となりうるその価値は未だ失われていないと思います。ぜひ多くの方に本書を手に取っていただき、日本の教育の現在と未来について考える時間を持っていただければ嬉しく思います。

[著者略歴]
奥平 康照(おくだいら やすてる)

1939年生まれ。1962年,東京教育大学教育学部教育学科を卒業。
1968年,東京教育大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。
1968年から大阪市立大学文学部に在職。
1987年から和光大学人文学部(現・現代人間学部)教授。
2010年,和光大学を定年退職,和光大学名誉教授。
2010年から2015年9月まで和光学園理事長。

専門は教育哲学・教育思想史。
主な著書は,『近代西洋教育史』(共編著,国土社),『少年期の道徳』(新日本出版社),『学校とはなにか』(講座学校第1巻,共編著,柏書房)。

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