三面鏡の中のシルエット:秘められた遺書
(著) 小笠原瑛次
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「ガラス戸に二重に映っている奥さんの姿が、先程から気になってならなかった。左右に開かれたご仏壇の透かし彫りで飾られた扉の裏にガラスが嵌め込まれており、その右側の一枚にどう見直しても奥さんが二重に映っているのだった。その一つが直接奥さんの姿を反射して、青年の視覚に届いているものであることは解るのだが、それと斜めに向き合う形で認められる、もう一つの奥さんの影像が、どのような光の曲折で自分の眼に入ってきているのかが解らないのだった。文科大学であったとはいえ、帝国大学を出ている彼にとって、反射の物理学的理論は解っているので、奥さんと自分の眼との間にもう一枚何らかの反射体があって、それに屈曲された形でしか、奥さんのその映像が見られないことは理の当然のはずなのだが、そのもう一枚の反射体が
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