破れ鼓膜よ、さようなら:安全で、患者にやさしい接着法(湯浅法)とは
(著) 湯浅涼
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――「接着法」の主役であるフィブリン糊は、次のどれから作られるでしょうか。
1.血液、2.髪の毛、3.骨
正解は、本書第2章「2 フィブリン糊とは ―耳の手術に不可欠な生体接着剤―」をご覧ください。
これまで全身麻酔下で行なわれ、一ヵ月以上の入院で一週間は頭部に包帯を巻き安静を強いられていた耳の手術を「日帰り」あるいは「数日間の短期入院」で可能にし、「破れ鼓膜」に悩む人々に福音をもたらした「接着法」。本書は、1988年に仙台で第一例を試行して以来、20年以上にわたり「接着法」の研究と普及に携わってきた著者が、簡素化、低侵襲化、短期入院化の口火を切った術式であり、その有効性が認められ日本国内のみならず世界にも広がりを見せるこの画期的な治療法について、その開発の経緯からメリット、実際の患者さんの声までを幅広く取り上げ、分かりやすく解説した作品である。
[目次]
プロローグ ―先生、聞こえます! ラブミーテンダーが!―
第一章 鼓膜形成術、鼓室形成術とは
1 耳の構造・音の伝わり方と難聴
2 聴力改善手術 ―鼓膜形成術と鼓室形成術―
3 従来の鼓膜形成術 ―二~三週間の入院が必要―
4 私が開発した「接着法」 ―最小限の切開で最大の安全性―
5 感動の生体反応 ―形成鼓膜に多数の血管が!—
6 マスコミの反応 ―TV報道で電話交換機がパンク─
第二章 フィブリン糊
1 医学生のコメントがヒント ―セメダインを使わないプラモデル―
2 フィブリン糊とは ―耳の手術に不可欠な生体接着剤―
3 無タンポン化の実現 ―術後耳内にガーゼを詰める意味は? ―
4 皮膚縫合への応用 ―術後の抜糸が不要に―
5 微量滴下器具の開発 ―特許庁との戦い―
6 今後の課題 ―自己血フィブリン糊の開発と使用―
第三章 「接着法」がもたらした恩恵
1 患者の負担が最小限に患者の負担が最小限に ―日帰りまたは二泊三日の短期入院で可能―
2 頭髪の剃毛や包帯、導尿などから解放 ―傷口にはカット絆一枚―
3 高齢者にも安心して手術を ―全身的合併症のある高齢者にも安全―
4 人工透析患者に両側鼓室形成術 ―週三回の透析の合間に手術―
5 ペースメーカー装着者や血管手術患者にも―術中の出血は最小限―
6 両耳同日手術も可能に ―従来は行なわれなかった両耳同日手術―
7 唯一聴耳の難聴も改善 ―片側しか聞こえない耳の手術も安心―
8 サーファーへの福音 ―サーファーズ・イヤーも術後一ヵ月で海へ―
9 鼓室形成術への導入 ―接着法は患者・術者双方へ恩恵―
10 手強い「真珠腫」の手術も簡素化 ―一ヵ月間の入院が五泊の入院に―
第四章 常識破りの試み
1 鼓膜・鼓室形成術を原則局所麻酔で ―九六%以上が局所麻酔―
2 鼓膜形成材料に皮下結合組織を ―筋膜より厚い皮下組織が最適―
3 大穿孔には冷凍保存自己組織で対応 ―恒久的閉鎖率が九五%へ─
4 大穿孔にも接着法が適応 ―トイレ内で思いついた対処法―
5 従来法での不成功例も接着法で成功 ─二週間入院が二泊三日に─
6 聴力改善術の最高齢は八十六歳 ―ご本人の熱意に後押しされて―
7 手術翌日、飛行機で帰途に ―機内サービスのキャンデーの意味―
8 妊婦への鼓膜・鼓室形成術 ―妊娠中に進行性の真珠腫を発見
第五章 鼓膜・鼓室形成術から学んだこと
1 手術は八〇%主義で ―術者は局所の回復力を引き出すだけ─
2 「お任せ」の患者さんが治りやすい理由(わけ) ―技量をフルに発揮―
3 手術の同意は柔軟に ―「強力な説得」と「患者さん任せ」―
4 術後の結果が次の手術に生かされる ―術者自らが経過を確認―
第六章 思い出の患者さんたち
1 沖縄からの患者さん第一号 ―朝日新聞への投稿が反響を呼ぶ―
2 長年の喘息が鼓膜再生で完治 ―破れ鼓膜と喘息にサヨウナラ―
3 世の中の騒々しさにびっくり ―地下鉄、換気扇の音、足音など―
4 術後はご主人のイビキが悩みに ―長年の結婚生活での新発見―
5 術後、車を乗り替えた患者さん自分の車の音に驚いて
6 世の中の静けさに感激補聴器の雑音に悩んできた患者さん
7 無駄話も聞こえるようになった塾講師 ―生徒からは憎まれ口も―
8 パチンコ通いをやめた男性 ―パチンコ屋の騒音に驚いて―
9 唯一聴耳の手術を受けた女性アナウンサー ―術後、司会を依頼―
10 シドニーからの患者さん ―不治を宣告されたもののみごと完治―
11 米国人の患者さんと論争 ―下手な英語が通じて無事手術―
12 突然死もあり得た少女 ―奇跡とも思える経過で完治―
第七章 世界への羽ばたき
1 純日本産の術式 ―日本生まれの技術が日本で定着―
2 国際学会での発表 ―国際学会で三回発表、二回の特別講義―
3 自書「手術書」の出版 ―臨床教授の退任記念に―
4 米国の教科書を分担執筆 ―"Yuasa’s Method"として記述―
5 他大学からも世界へ発信──他大学教授が米独で紹介
6 ついにアメリカへ ―二〇〇七年九月、「接着法」を教育講演―
7 ブータン王国で「破れ鼓膜よ、さようなら」を6年間実施
エピローグ
改定第二版(電子版)出版にあたり
[出版社からのコメント]
本書は耳の治療に関する作品ですが、ひとつの治療法がどの様に生まれ広がっていったのかというノンフィクションとしても面白い内容となっています。耳の症状に悩まされている方はもちろん、普段はあまり意識しない耳について理解を深めるという点でも、多くの方にお薦めしたい一書です。
【著者略歴】
湯浅 涼(ゆあさ・りょう)
1938年 東京都生まれ
1963年 東北大学医学部を卒業後、東北大学医学部 耳鼻咽喉科学教室入局
1968年 東北大学大学院卒業(医学博士)
1973年 東北労災病院 耳鼻咽喉科部長に就任
1988年 フィブリン糊を用いた「接着法」第一例を実施
1993年 東北労災病院を退職し、将監耳鼻咽喉科院長に就任
2002年 東北大学医学部 初代臨床教授に就任
2006年 医療法人 仙台・中耳サージセンターを設立
現在、日本耳鼻咽喉科学会参与、日本耳科学会参与などをつとめる。
著書に、『実践鼓膜・鼓室形成術』(金原出版)など。
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