なぜ葬儀は必要なのか?──いま住職が考える仏教の彼是

(著) 渡辺明照

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作品詳細

[商品について]
ー住職の、住職による、住職のための本ー
「不易流行」という言葉があるように、宗教にもいつの時代も変わらぬものと時代によって変わっていくものとがある。だからこそ、時代に身を置く僧侶は常に柔軟な心を自ら作っていかなければならないのである。ーー本書は天台宗住職として長年お勤めを果たしてきた著者が、檀家と寺との関わりの中で学び得た、住職が心得ておきたい様々な知見を明かした一書。
「いい葬式」とは、参列者がどんなことを感じる葬式なのか。自死を望む人に対して、僧侶ができることとは。科学技術が発展したいま、僧侶という存在も含め、宗教の果たす役割は何なのか。
「或る一介の僧侶」の主張を通して、仏教、そして宗教の本質が見えてくる。

[担当からのコメント]
本書は長年天台宗の住職として活躍してきた著者が、同じく住職の方のために書いた書籍ではありますが、その内容は多岐にわたっており、一般の方にとっても多くの学びが得られる1冊となっています。お葬式や法事の際などにお会いする住職さんは仏教に対してどんなことを思っているのか、そのことを本書を通して知っていただければ、きっと仏教への理解がさらに深まるはずです。

[書評]
葬式は後継者や子どもの「教育」の場だった

形骸化する葬式の意味を考える

今、寺の存在意義が問われている。
寺の役割は、葬式や法要の場に限られており、
それらは儀礼的なものでしかないと考える人も、増えているからだ。

葬式は何のためにあるのだろうか。

天台宗の住職である著者が、住職の仕事と天台教学の実践を論じたのが本書だ。

現代社会では、葬式は形骸化していると感じる人も少なくないだろう。葬式は高額な費用がかかり、時間も手間もかかるものというイメージが強い。

しかし、葬式は故人の人生を讃え、遺族や参列者にとっても大切な意味を持つものだ。どういうことなのか、本書の内容を基にもう少し詳しく説明しよう。

現代も解決されていない「死」の問題

かつて、寺は地域の人々の教育や医療、社会福祉を担っていた。ところが、行政や民間サービスが充実している現代、寺の役割は縮小している。

社会の発展に伴って、私たちはさまざまな問題をサービスに対価を支払うことで解決できるようになったが、いまだ「死」の問題は解決されていない。なぜなら多くの人にとって、身近な人の死は経験がないからだ。気が動転したり、悲しみに打ちひしがれたりしているとき、救いを与えてくれるのが寺であり、葬式なのだ。

天台宗の住職である著者は、葬式の意義は故人の冥福を祈るだけでなく、故人の人生を振り返り、感謝の気持ちを表す場であると言う。葬式を「卒業証書」としてとらえ、故人の遺志や遺産を受け継ぐことは、故人の功徳を増やし供養にもなるだろう。

親が子にできる最良の教育とは

生者にとってはどうだろう。著者は、葬式は後継者や子供の教育の場でもあると主張する。どのような人が集まり、そこでどのような空気が醸成されるかを見れば、故人の生前の活躍をうかがい知ることができる。離れていた親類・縁者が一同に会すれば、縁が再びつながることもあるはずだ。

小さな子どもにとって葬式は、普段とは違う親の一面を垣間見る場にもなる。悲しんでいる姿や、あるいは凛とした姿に感動したり、その姿に不思議さや尊敬の念を抱いたりすることもあるだろう。

それこそが、知識重視の教育の場とは異なる教育の機会である。葬式は親から子に教えられる最良の教育の機会だ、とも著者は言う。葬式の意味や目的が形骸化していると感じる人にとって、この主張は新たな視点に思えるだろう。

住職としての社会的使命感を持つことや、檀家との接点を作ることの重要性を説く本書は、寺の運営に悩む住職を対象にしているように見える。

著者は天台宗のため、宗派や教義が異なる場合は参考にならないと思われるかもしれないが、そうとは限らない。

「様々な問題は、一般論、抽象論ではなく、具体性を通して初めて解決されるもの」であり、具体的な事例から一般化、抽象化することもできるからである。

本書は天台教学の基本的な内容や、仏教の喜びを味わう方法も紹介しているので、仏教に関心がある人も興味深く読めるだろう。

文:筒井永英

[著者紹介]
渡辺 明照(わたなべ みょうしょう)
昭和23年9月11日生まれ。
大正大学大学院文学研究科宗教学(西洋哲学)専攻博士課程単位取得満期退学。
大正大学講師・東洋大学講師
最勝寺住職

著書
『哲学と倫理の間』(共著、北樹出版、昭和56年)。
『近代日本の思想と仏教』(共著、東京書籍、昭和57年)。
『知ることと悟ること』(共著、勁草書房、昭和58年)。
『宗教の現象学』(共著、東方出版、昭和59年)。
『東と西 永遠の道』(共著、北樹出版、昭和60年)。
『比較思想の世界』(共著、北樹出版、昭和62年)。
『概説 西洋哲学史』(共著、ミネルヴァ書房、平成1年)。
『悪を哲学する』(共著、北樹出版、平成15年)。
『生死のなかに仏あり』(北樹出版、平成16年)。
『知のエクスプロージョン』(共編著、北樹出版、平成21年)。
『「いのち」の流れ』(共著、北樹出版、平成21年)。
論文多数。

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