脱不況の経済政策を考えよう:消費需要が生まれるシステムとは?

(著) 五藤榮一

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作品詳細

[商品について]
ー賃上げをするだけでは、国民は豊かにはならないー
不況や倒産といった不安感が多くの企業を襲う現代。そんな瀕死の状態ともいえる日本の資本主義経済を救う一手はあるのだろうか。貧富の格差拡大や労働者の働きがい喪失に警鐘を鳴らす著者は、各企業ごとの労働分配率に応じた税制や、国民の消費性向を上げるためのベーシック・インカム制度、また金利はゼロで引き出し額にも制限があるものの、相続税・贈与税がかからない「貯蓄国債」など、ユニークで新しい経済対策を提唱する。
大学生のSと、経済に深い知見を持つ亡き祖父の亡霊Gとの対話形式で綴られた斬新な経済学講義。

[担当からのコメント]
本書を読むと、本当に大切なのは、ただ「不況だ」と嘆くことではなく、そこにいくつもの打開策があることを知り、それらを深く検討することなのだと気づかされます。経済学を学ぶ大学生が祖父から講義を受けるような形で論が進んでいくため、経済学を学びはじめたばかりの学生さんや、やさしく経済政策を学びたい方は、ぜひ本書を読んでみてください。

[書評]
知っていますか? 給料は増えていないのに、会社の貯金は増えています

解説と提言で経済ニュースが身近になる

「物価目標ってなに? なぜ政府は物価を上げたいの? 安い方がいいのに」
「貯金ばかりしているとダメってどういうこと?」

そんな疑問を持つ人に、この本を勧めたい。


企業の内部留保は10年連続で過去最高を更新
 この本は、不況を克服する経済政策を解説し、新しい政策のアイディアを提案している。

 経済政策は、まず投資を考えるべきだという考えがある。ところが著者は、たとえば公共工事のように設備投資を増やして好景気にしようとすることには、限界があると主張する。設備投資による好景気は長くは続かず、すぐに不景気に向かうことになるからだという。

 そのため、本書は企業が生み出した付加価値に占める人件費の割合である「労働分配率」と、所得に対する消費の割合を示す「消費性向」をいかに引き上げるかという観点から、論を始めている。

 財務省が発表した法人企業統計によると、2012年以来、10年連続で企業の内部留保は過去最高を更新している。この30年、労働者の実質賃金や設備投資は伸び悩んでいるが、企業の内部留保は増え続けているのだ。著者の課題意識はこの点にあるのだろう。

価格競争に負ける本当の原因は?
 しかし、経済界からは労働分配率が高まると利益の圧縮につながるとして反対も根強い。本書はそのような経済界のさまざまな声に対して、反論している点がユニークだ。たとえば、次の文章を見てみよう。

「外国との価格競争で負ける原因が、海外より製造コストが高いためだとすれば、それは労働分配率の問題ではなくて、賃金そのものの低さやコストを構成する資源材料が安く手に入るかどうかの問題、等に原因を求めるべきであろう。それらの格差を補うだけの生産性や技術力や労働の質があるから、海外との競争に対抗出来てきたのだ」。

 経営者の立場からすると、労働分配率は低い方が望ましい。そこでできる限り労働分配率を低い水準に保とうとする。ところが、適正水準より低い労働分配率はさまざまな悪状況を生む。

 経営者は労働分配率とともに、労働生産性や一人あたりの人件費といった指標も参考にしつつ、価格競争に負ける真の原因と向き合わなければならないだろう。

労働分配率を高める、思い切ったアイディア
 別のユニークな点は、具体的な経済政策のアイディアと実行の順序がステップで提案されていることだ。特に労働分配率税に対する提案は興味深い。

「最初は、各企業が労働分配率を上げれば減税をするという、インセンティブ税制として労働分配率を上げれば減税するという税制を提案していますが、統計データが蓄積されれば、基準の労働分配率を指標としてそれより低い企業には重課、高い企業には減税という税制で、指標を設定することで経済をコントロールすることも可能となるでしょう」

 資本主義経済による「適度な儲けは、経済をまわすために必要なことで、そういう意味で資本主義経済が優れたシステムであることは、多くの人々に認められている」。ところが、企業の内部留保が増えているのに、設備投資や人件費が伸び悩むと消費や雇用の拡大につながらない。

 市場に任せて好転しなかったのが、平成だったのだ。労働分配率税の議論も必要かもしれない。

「現在の金融資本主義経済の仕組みを変革することができるかどうかは、国民の知性をいかに醸成し、有効な経済政策という力にまとめることができるかどうかにかかっています」。

 本書を読むと、経済政策に関するニュースがよりわかるようになるはずだ。

文:筒井永英

[目次]
まえがき
第1章 経済政策とその効果
第2章 具体的な経済政策の検討
第3章 国際経済
第4章 経済政策の実行の順序
あとがき

[著者略歴]
五藤榮一(ごとう・えいいち)
生年月日 1939年3月4日
最終学歴 京都大学1964年卒業
職業   税理士

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