経済の基本原理を考えよう:不況発生の原因とは?

(著) 五藤榮一

Amazon

作品詳細

[商品について]
ーおとぎ話の国をモデルに学ぶ経済学ー
街には商品を売りたい企業の広告が溢れているものの、欲しいものを買う余裕のない国民。現代の日本を象徴する、この供給力の過剰と消費需要の不足という「不況」発生の原因はどこにあるのだろうか。大学生のSと、経済に深い知見を持つ亡き祖父の亡霊Gはこの問いを解決すべく、「かわらけ」という土器を中心に社会が動く古代の王国へ、経済の仕組みをみつける旅に出かける。
需要と供給が完全に均衡している一方、成長も一切ない女王ヒミコの治世。そしてどうにか好況を生み出そうと工夫を凝らすフミコやヘミコといったその後継者たち。古代日本をモチーフにしたおとぎ話の国のシンプルな経済モデルを通して、経済の原理と核心に迫る。

[担当からのコメント]
経済学に関する本は世の中に沢山ありますが、古代の王国を訪ねるという設定のもとに、経済の仕組みをわかりやすく解説した書籍は珍しいかと思います。しかし、確かに現代の複雑な経済をより深く理解するには、古代の社会のように単純化されたモデルを例に考えるのが最適なのではないでしょうか。難しい経済学の本に挫折してしまった方、またイメージを膨らませながら楽しく経済について学びたい方におすすめの1冊です。

[書評]
好景気と不景気はなぜ交互にやってくるのか

ヒミコと学ぶ経済の仕組み


年中暖かく、手の届くところにいつでも食べるものがある。衣食住すべてが保証されているので、生活のために働かなくていい。そんな世界の経済は、一体どうなっているだろうか。

「現実離れしている」と思う人は、世界を少し難しく見てしまっているかもしれない。難しいと思えることも、シンプルになることで見えてくるものがある。ヒミコの国を眺めながら、経済のことを学んでみよう。


経済が均衡している世界とは
 本書はシンプルなモデル経済で「好景気と不景気はなぜ交互にやってくるのか」という疑問に答える。ところどころ図解が挿入されている上、物語形式をとっているので、肩ひじ張らずに読み進められるだろう。

 設定はこうだ。

 大学の講義で教授の解説に納得いかない経済学を学ぶ学生が、田舎の先祖の墓参りに行き、祖父の霊に出会う。講義の悩みを打ち明けると、祖父から経済の仕組みを見つける旅に誘われた。たどり着いたのは、女王ヒミコが治める世界だった。

 その世界の人々は「かわらけ」と呼ばれる釉薬の塗られていない素焼きの皿を海に向かって投げる遊びに興じている。衣食住がすべて整えられているので、生活のために働く必要がない。

 しかし、給料はすべて「かわらけ」の購入に充てられることになっており、資金が貯金や投資に回ることはない。もちろん、他の娯楽もない世界だ。

 かわらけの生産量が一定で、給料の額とかわらけの購入費用が等しいこの世界に不景気はない。経済が均衡しているからだ。この世界は不況になることもないが、成長することもない。それに不満を覚えた次の女王の治世から、少しずつ、均衡が崩れていく。

不況回避のカギは労働分配率
 女王が変わるごとに少しずつ条件が変わっていくが、最終的に「好景気は設備投資の拡大だけでは維持できず、不況回避のために何よりも重要なのは、労働分配率を上げること」だと本書は結論づける。労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち人件費に分配される割合を表すもの。企業が従業員に対してどれだけ収益を還元しているかや、人件費が適正な水準にあるか、を判断するために使われる経営指標となっている。

 ヒミコの国では、給料と消費する金額が完全に一致している(これを消費性向100%という)。しかし資本主義経済でそのようなことはありえないし、資本主義以外のシステムを採用している国でも、消費性向が100%になることはないだろう。

モデル経済から現実経済の仕組みまで解説する4部作
 本書は4部作になっている。シリーズの2作目では、税金や国債、貿易などより現実世界に近い概念を加えて、資本主義経済を考察している。3作目では好不況が発生する構造をシミュレーションし、4作目では具体的な経済政策の考察と提言を行う。シリーズで読めば単純化されたモデル経済から、現実経済の仕組みまで一気に理解できる。

 あとがきで著者は次のように書いている。

「必要なのは、一人一人が、不況の闇の元凶を確認し、それを変える政策を提起し支持することです。国民の合意が、どうしても必要になります。」

 今、政府は最低賃金を1500円に引き上げるという目標を掲げている。そこにはさまざまな議論があるが、本書を読めば、議論の勘所がよりつかめるようになるだろう。

文:筒井永英

[目次]
まえがき
プロローグ
第1章 女王ヒミコの治世 ――経済の均衡安定
第2章 女王フミコの治世
第3章 女王へミコの治世
第4章 女王ホミコの時代 ――生産性アップ・高投資⇒不況・破綻へ
第5章 女王ホミコの遊休剰余発生と残高
第6章 女王マミコの選択Ⅰ 需給差改善投資額⇒再破綻
第7章 女王マミコの選択Ⅱ ――労働分配率アップ:好況へ
第8章 女王マミコ選択Ⅲ
第9章 まとめ
あとがき
著者略歴

[著者略歴]
五藤 榮一(ごとう・えいいち)
生年月日 1939年3月4日
最終学歴 京都大学1964年卒業
職業 税理士

新刊情報

       

22世紀アート
オフィシャルコーポレートサイト

百折不撓