社会運動としての東大全共闘 第2分冊 第2章 所有および差別の起原と家族の来歴

(著) 高口英茂

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作品詳細

[商品について]
―資本主義を超え、そしてソ連型社会主義を超えるために―
近代資本主義が生みだす社会矛盾に立ち向かう社会運動の流れの中で、「予示的運動」に近いところに立ち異彩を放っていた東大全共闘運動。「ソ連型社会主義」が失敗に終わり、近代資本主義に対峙する新たな運動が模索される中で、今後の社会運動の原理として発展しうる予示的原理を内包していた東大全共闘運動は、今あらためて社会運動の視点から総括されなければならない。全5巻に分けて東大全共闘運動に迫るシリーズ、第2巻の本書では私的所有権理論による近代の「所有」とその「所有」を人身にまで及ぼしたものとしての「奴隷制」、新たなコンセプトとしての「社会主義的所有」など、「所有」と「差別」という全共闘運動にとっても重要なテーマについて考える。

『社会運動としての東大全共闘』は5分冊となっております。

[目次]
第2章 所有および差別の起原と家族の来歴
第一節 生産手段所有の発生とその変遷
 1.「所有」の原初形態
「所有」は原初から存在するが、「私的所有」の完成は近代
「私的所有」は〈総有〉から析出
食糧はそれが交易品にならない段階では余剰がたくさん収穫できても無意味
威信財を除く物財も未開・部族社会初期までは贈与が私有にまつわる問題をなくす
食糧の「プール・イン」システム下の社会は暮らしよい社会であった
部族社会では、贈与、市場取引、再分配が混在
家畜は重要な私有財産
 2.大地の所有
大地はどの時代でも「完全な私有財産」になったことはない
インカ王国の土地所有と地税
歴史的には共有地を共同体の個々の成員が占有して耕作
沖縄で存続していた農地の定期的割替え制度
山林は集団の共有財産でムラ人には用益権を付与
「地税」は最末端では目いっぱい徴収される
マルクスは地税と地代を同じものと見ている
土地の「私的所有」の発生
王権確立期に農耕地が部族共有から私有に転じる
 3.「入り会い」原理の確立を目指して
エンゲルスは「マルク共同体」の復活を提唱
戦争が私的所有を拡大、私的所有の拡大が戦争を誘発
個人主義と私的所有の起源;個人主義はキリスト教の三位一体信仰から
智慧の「所有」にまで拡大したこんにちの所有権慣習
「共有生産手段への入会い」の思想を現代に生かす
所有の一形態としての私有でも国有でもない「入会い」の先に浮かぶ〈総有〉の意味と意義
マルクスにおける所有と平等との関係

第二節 他者人身の所有・支配(奴隷制と人身売買)の歴史
 1.歴史上の奴隷存在と現代の奴隷
労働者を“賃金奴隷”と位置付けることについて
部族社会末期の奴隷は集団の中の特権者(首長あるいは貴族)のところで出現
古代ローマの前の時代の古代の奴隷
歴史的に存在した「奴隷制」に関しては相反する見解が多数ある
身代金が払えなければ奴隷として使役された戦争捕虜
現代世界の奴隷人数は100万人から2億人?
労働者は奴隷同然だというが、近代前の奴隷はもっと人間的に扱われている
 2.奴隷の境涯と労働者身分
自ら志願して奴隷になる人たちの出現
奴隷制ばかりでなく近代前の農奴制のイメージも近代農奴制からの想像でイメージを形成
エリザベス救貧法は耕作地を失った浮浪者による治安悪化防止対策
先進地域における「労働者身分」の誕生
制度としての奴隷制はなくなったが、「人身売買的取引」による他者人身の支配は激化か?
「性的奴隷」の概念

第三節 差別の出現と現代の反差別運動
 1.差別の生起
人種差別に姿を変えたアメリカの奴隷制
集団が見下しと怖れから転化した賤視を日常的に再生産
江戸時代の穢多村住人は「役人村」居住の役人では?
全国水平社の被差別部落差別撤廃闘争
日本では、近代に至って社会に差別があったことが支配に利用された
「差別」と天皇制
「天皇制民主主義」とういうのは“あり”なのか?
天皇の戦争責任問題
「天皇制ファシズム」論には賛成できない
帝国主義侵略のための全体主義体制に有効な反撃を行い得なかったコミンテルンの指導
 2.「国内居住異民族」に対する多数派「国民」の差別
アイヌの人たちへの差別
明治以降のアイヌ差別は被抑圧民を差別する植民地主義的差別であった
在日コリアン、在日中国人の被差別と“反入管闘争”
新左翼の「入管闘争」の終焉と「右翼」の台頭
 3.「差別」はどうすればなくせるのだろうか
東大病院精神科医師連合の自主管理闘争と精神障害者の差別打破闘争
精神病者・精神障害者への対応を欧米水準に近づけることと労働時間の自己決定
マルクスが重大問題視している「差別」は生産手段へのアクセスへの拒否を伴う差別
差別をなくしていく方法?

第四節 家族の起源とその歴史
 1.「核家族普遍論」の席章とそれへの異議申し立て
第二次大戦後のアメリカ覇権の時代と核家族理論の席巻 
核家族普遍論への批判としてのロングハウスに住む母系制ナヤール族の存在
70年代後半の第二波フェミニズムによる家族研究批判の開始
近世・近代の家族が歴史的な産物であることを明らかにしたヨーロッパの家族研究
洗礼・結婚・埋葬の教会の記録をつなぎ合わせてかつての家族を復元
家族の歴史の解明を阻む資料の断片性の壁
 2.「家族」の誕生を追えるだけ追う
家族の起源についてどう仮説できるだろうか
ロングハウス内世帯から独立居住世帯へ
日本では古墳時代に上層部が「家父長制家族」をつくって部族民集団から離れる
ロングハウス居住形態から「相続制」を考える
相続制度と資本主義は関係するのか?
個人資産の相続と法人資産の「相続?」
家族が背負った二重分業体制と家父長制
日本では開墾が豪族の「家父長制大家族」の出現を促してきた
戦国時代末期から江戸時代初頭にかけての新田開発は核家族を用意
古墳時代の豪族は大和朝廷の支配体制である「氏姓制度」を受けいれる
 3.近代の家族の基調は「家父長制小家族」
国家との関連が深い中国の家族
世帯規模がピンからキリまで多様だった近世・近代のイングランドの家族
4歳5歳の少年少女を地底の暗闇に半日以上閉じ込めて働かせた19世紀イギリスの炭鉱
19世紀半ばすぎにイングランド労働者の家族が「家父長制小家族」として確立
先進国近代家族における「国民国家型家父長制家族」の普遍化
「上層労働者」の出現は労働者家族の「家父長制家族化」を一層深化
帝国主義時代には二様の家父長制家族が併存
日本のイエ制度は藤原道長が「家督」の概念を確立したことからはじまる?
日本型経営とイエ制度は実際には時期がずれており強引な関連付けはできない
戦前のイエ制度の実際

第五節 現代における家族の変容と女性(フェミニズムの動向を中心に)

 1.1970年前後の第二波フェミニズムの興隆と沈静化
全共闘運動とフェミニズム運動
世界的だった1970年前後の第二波フェミニズム
エンゲルステーゼ:歴史の基底にあるのが人々の直接的生命の生産と再生産の営み
近代資本主義は「労働力の再生産」によって維持されるシステム
資本主義世界システム下のハウスホールド
フェミニズムが支払いを要求した再生産費用の市場価値額計算は無理
第二波フェミニズムの混迷
 2.第三波フェミニズムへの序章
ポスト第二波フェミニズムの時代における新フェミニズムの模索
グローバリゼーションの中での労働者家族は「移民の家族」に?
「自分探し」から「居場所探し」へ、そしてそれがうまくいかないまま不如意の老人に
社会主義運動推進の立場から見ての第二波フェミニズム

[担当からのコメント]
環境問題や労働問題、貧富の格差など現代の私たちが抱える喫緊の課題の中には、少なからず近代資本主義の矛盾が含まれています。これらの難問を超えるためには今なにが必要なのか、本書はそうした思索をするうえでも示唆に富む内容となっています。ぜひご一読ください。

[著者略歴]
高口英茂(たかぐち ひでしげ)

1945年 北海道帯広市生まれ。1968年 東大全共闘運動参画。1981年(株)クリオ設立、代表取締役。2011年 病を得て離職。2016年『東大全共闘と社会主義』(全5巻)を(株)芙蓉書房出版より刊行。

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