楊貴妃文学史研究

(著) 竹村則行

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―定型化された文学表現としての楊貴妃が示す中国文学の構造―

絶世の美女として知られる楊貴妃、そのイメージは主に白居易の「長恨歌」によるところが大きい。しかし、その白居易にしても、実は単なる楊貴妃礼賛のみを企図していたわけではなかった。本書は、楊貴妃に「中国盛唐の繁栄と没落の象徴」としての位置を与えながら、盛唐から魯迅ら近現代までの楊貴妃に関する文学を時代別・テーマ別に取り上げ、楊貴妃故事の変遷、楊貴妃という存在をここまで魅力的な題材に押し上げた時代背景を明らかにしていく。多様な楊貴妃の姿を浮かび上がらせる、画期的な中国文学史研究。


[目次]

電子書籍版『楊貴妃文学史研究』解題

一 はじめに ―ご挨拶と自己紹介

二 電子書籍版『楊貴妃文学史研究』発刊の経緯

三 楊貴妃略伝

四 電子書籍版『楊貴妃文学史研究』各章の概要

三 韋応物の「驪山行」「温泉行」詩について

四 楊貴妃の笑い―杜牧「一騎紅塵妃子笑」詩について―

五 「華清宮、和杜舍人」詩の作者は誰か

六 中晩唐における華清宮の零落

七 黄 の「明皇迴駕経馬嵬賦」

八 『三体詩』に誤入する杜常「華清宮」詩をめぐって

九 「梅妃伝」の作者とその成書時期

十 「楊太真外伝」の成書に関する一考察

十一 元曲「梧桐雨」と明皇撃梧桐図

十二 『驚鴻記』について

十三 『驚鴻記』を襲用した『隋唐演義』の梅妃故事について

十四 洪昇の七夕詩と『長生殿』

十五 梅妃から見た『長生殿』の楊貴妃像

十六 『長生殿』における季節の推移

十七 魯迅の未刊腹稿「楊貴妃」について

五 魔女に仕立てられた中国文学史上の楊貴妃

六 美女描写に終始した日本文学史上の楊貴妃

七 まとめ―繁栄と没落の象徴としての楊貴妃像

序  論

Ⅰ 総  論

一 「長恨歌」から『長生殿』に至る楊貴妃故事の変遷

一 はじめに

二 李白と杜甫が詠んだ楊貴妃

三 「長恨歌」と「長恨歌伝」

四 中晩唐期の楊貴妃故事

五 宋代の楊貴妃故事

六 まとめ

二 「梧桐雨」から『長生殿』に至る楊貴妃故事の変遷

一 はじめに

二 「梅妃伝」

三 「梧桐雨」

四 「天宝遺事諸宮調」

五 『驚鴻記』

六 『天宝曲史』

七 『長生殿』

八 まとめ

Ⅱ 中晩唐における楊貴妃故事の展開

三 韋応物の「驪山行」「温泉行」詩について

一 はじめに

二 玄宗の驪山宮行幸に扈従した少年韋応物

三 官蔭としての侍衛出仕

四 「驪山行」詩について

五 「温泉行」詩について

六 「驪山行」「温泉行」詩の制作年代

七 まとめ

四 楊貴妃の笑い ――杜牧「一騎紅塵妃子笑」詩について――

一 はじめに

二 「笑」は好物の茘枝への微笑みであったのか

三 「過華清宮絶句三首」其二、其三について

四 驪山に纏わる褒姒の亡国の笑い

五 褒姒と楊貴妃の詠史詩の相似性

六 驪山・華清宮について懐古した杜牧詩

七 現代における「楊貴妃の笑い」の解釈

八 まとめ

五 「華清宮、和杜舎人」詩の作者は誰か

一 はじめに

二 作者たるにふさわしい詩友張祜・趙嘏・薛能・温庭筠

三 「華清宮、和杜舎人」詩の異同

四 『文苑英華』本の表記の問題と張祜作の可能性

五 張祜と杜牧の交友について

六 まとめ

六 中晩唐における華清宮の零落

一 はじめに

二 華清宮志

三 華清宮の零落の原因

四 幽霊館の如く忌み嫌われた華清宮

五 中晩唐における詠華清宮詩ついて

六 まとめ

Ⅲ 五代・宋・元における楊貴妃故事の展開

七 黄滔の「明皇迴駕経馬嵬賦」について

一 はじめに

二 黄滔について

三 黄滔の詩文集について

四 「明皇迴駕経馬嵬賦」の概要

五 「明皇迴駕経馬嵬賦」の特色

六 晩唐の詠馬嵬詩について

七 まとめ

八 『三体詩』に誤入する杜常「華清宮」詩をめぐって

一 はじめに

二 杜常の「華清宮」詩の異同

三 杜常について

四 杜常「華清宮」詩をめぐる論争

五 周弼『三体詩』と洪邁『万首唐人絶句』

六 宋代における唐詩編纂の杜撰

七 まとめ

九 「梅妃伝」の作者とその成書時期

一 井上靖「楊貴妃伝」

二 「梅妃伝」あらすじ

三 曹鄴作は誤り

四 朱遵度及び葉夢得

五 魯迅「稗辺小綴」の疑点

六 原本「梅妃伝」

七 『驚鴻記』『長生殿』、魯迅の「楊貴妃」

十 「楊太真外伝」の成書に関する一考察 ――原本「楊妃外伝」から通行本「楊太真外伝」へ――

一 はじめに

二 楽史の略伝と「楊太真外伝」の概要

三 「楊太真外伝」の諸本

四 『類説』本「楊妃外伝」と通行本「楊太真外伝」

五 まとめ――「楊太真外伝」の成書と『説郛』

十一 元曲「梧桐雨」と明皇撃梧桐図

一 はじめに

二 「梧桐雨」中の明皇撃梧桐故事

三 明皇撃梧桐図の変遷

四 金元における明皇撃梧桐図の題画詩

五 金元における明皇撃梧桐図詩の作者と元好問

六 元好問と白樸

七 白樸と当時の文人との交友

八 まとめ

Ⅳ 明・清における楊貴妃故事の展開

十二 『驚鴻記』について

一 はじめに

二 『驚鴻記』の作者・版本について

三 新刻本と標註本について

四 陳氏標註および葉徳輝跋について

五 『驚鴻記』梗概

六 まとめ

十三 『驚鴻記」を襲用した『隋唐演義』の梅妃故事について

一 はじめに

二 呉世美と『驚鴻記』の版本および梗概

三 褚人穫と『隋唐演義』

四 『驚鴻記』を襲用した『隋唐演義』の描写について

五 『混唐後伝』について

六 まとめ

十四 洪昇の七夕詩と『長生殿』

一 はじめに

二 「七月七日長生殿」

三 洪昇の七夕詩

四 七夕に結婚した洪昇

五 まとめ

十五 梅妃から見た『長生殿』の楊貴妃像

一 はじめに

二 「梅妃伝」について

三 『驚鴻記』その他について

四 楊貴妃に取材した作品

五 『長生殿』と梅妃故事

六 まとめ

十六 『長生殿』における季節の推移

一 はじめに

二 『長生殿』における季節描写

三 「長恨歌」における季節描写

四 史実を変改した『長生殿』における季節描写

五 まとめ

Ⅴ 近現代における楊貴妃故事の展開

十七 魯迅の未刊腹稿「楊貴妃」について ――時間旅行の幻滅――

一 はじめに――小説「楊貴妃」

二 歴史劇「楊貴妃」

三 北京―西安の往復路と西北大での集中講演

四 西安旅行の幻滅

五 まとめ――時間旅行の幻滅

結  論

あとがき

初出一覧

著者略歴


[担当からのコメント]

傾国の美女というと楊貴妃をイメージする方も多いのではないかと思いますが、そうした文学的な虚像と歴史の闇に埋もれた実像のはざまで楊貴妃という存在が現在まで生き続けていること、そこに文学や芸術、歴史の面白さがあるのだと本書を読んでいると改めて思います。中国の古典文学の教養書としてもお楽しみいただける一書です。


[著者略歴]

竹村則行(たけむら のりゆき)


一九五一年大分県生まれ

九州大学大学院人文科学研究院教授を経て

現在九州大学名誉教授

編著 『長生殿箋注』(共著、中州古籍出版社)、『長生殿訳注』(研文出版)、『驚鴻記校注』(中国書店)、『わかりやすくおもしろい中国文学講義』(共著、九州大学中国文学会、中国書店)、『中国文学論纂』(花書院)など

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