身近で生きた物理学入門ーー先人たちの思索から学ぶ
(著) 滝沢俊治
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―物理学の教科書の行間には、様々なドラマがある―
大学の理工系の学部でも、化学など他学科の学生が持つ物理学の印象はすこぶる悪い。わけの分からない公式で、実生活に役に立ちそうもない難題を解く。そこにあるのは物理学のそんなイメージである。しかし本来、科学は発見のドラマの歴史であり、それを支えたのは世界の成り立ちへの強い興味に他ならない。本書では、理系文系を問わず学生たちの中にも、そして一般の方々の中にもあるそうした「興味」を引き出し、物理学が持つ魅力を知っていただくために、力学と熱力学の歴史のドラマをたどりながら、19世紀中葉までの物理学体系の考え方を平易な言葉で分かりやすく解説していく。物理学を身近で生き生きとしたものにするための格好の入門書。
[目次]
はじめに
Ⅰ 力と運動
1 動くってどういうことだろう
「止まっていない」こと?
運動についてのニュートンの説明――時間と空間
いろいろな物の速さ
速さの単位、数値の指数表現
速度とは――運動の速さと方向
加速度
なぜ動くのか(1)
力のベクトル
なぜ動くのか(2)
2 質量、力って何だろう
ニュートン
ケプラーの法則
万有引力の法則――月は落ちている!
ニュートンの3法則
質量って何だろう
スペースシャトル内での物体の質量測定
質量の単位
MKS単位系
万有引力による惑星の運動
力とは何だったか
ニュートン力学――時代が要請した新しい統一的世界観
地球の重さ(質量)を測る
万有引力の比較
3 ニュートン力学のその後
フランスでの新たな発展
未知の惑星――海王星の発見
ニュートン力学の決定論的性格とそれからの脱却
カオスについて
ニュートン力学の保存則
振り子の運動
Ⅱ 温度と熱
1 熱の研究の出発点に立つ
温度とは
温度計の発明
温度計の改良
温度計の目盛り
気体温度計と絶対零度
熱とは何か――温度と熱の区別
熱の定義、熱容量と比熱
2 産業革命の中の研究者たち
ブラックによる熱学の基礎の確立
ジェームス・ワットの蒸気機関の改良
熱の本性をめぐる議論――熱素説とラムフォードの実験
回り灯籠
サディ・カルノー
サディ・カルノーの問題意識
理想的な熱機関の効率(1)――可逆熱機関
理想的な熱機関の効率(2)――カルノーサイクル
サディ・カルノーの「覚書」
埋もれていたカルノーの『考察』とその発掘
ジュールの研究の出発点
ジュール熱の法則
熱素説への挑戦
トムソンの受けた衝撃
熱とは何か――これまでのまとめ
Ⅲ エネルギーとエントロピー
1 エネルギー保存則を考える
医師マイヤーの発見
熱の仕事当量(気体の比熱からの推定値)
マイヤーの論文の歴史的評価
ヘルムホルツによる「エネルギー保存の法則」
振り子の運動と力学的エネルギーの散逸
米粒を入れたフィルムケースの運動
エネルギー保存則の数式的表現
エネルギー保存の法則あれこれ
大詰め――クラウジウスの登場
2 熱機関と新しい状態量の発見
カルノーの熱機関の正しい解釈とその効率
トムソンの提案した絶対温度
クラウジウスの視点
新しい状態量の発見――エントロピーの概念
水の相変化のさいのエントロピー変化
非可逆過程とエントロピー生成
非可逆過程におけるエントロピー生成の例
エントロピー増大則の分子統計的解釈
現象論と分子論
エントロピー増大の法則と環境問題
尽きない自然の探求
Ⅳ 科学と社会
1 物理学と国家、戦争
熱力学による統一的な自然観
19世紀末から20世紀初頭における物理学の発展
幕末と明治初期の日本の物理学
長岡半太郎の学生時代
19世紀後半の社会における科学の位置づけ
国家と科学(1)
国家と科学(2)
2 ヒロシマ、ナガサキへの道行きの中で
ピエール・キュリーの危惧したこと
ラザフォードの原子核実験
急展開する1930年代以降の核物理学
ウラニウムの核分裂の発見と連鎖反応の可能性
ナチス・ドイツ占領下でのジョリオ・キュリーの活動
ランジュバンの逮捕と抗議のたたかい
原子爆弾製造の始まり
マンハッタン計画(原子爆弾製造計画)
日本の都市への原爆投下に対する科学者の反対意見
ヒロシマ、ナガサキの悲劇
オッペンハイマーと水爆実験計画
3 科学者とヒューマニズム
アメリカの原爆外交
第2次世界大戦後の科学者の平和運動
ビキニ水爆実験と死の灰
ラッセル・アインシュタイン宣言
国連軍縮特別総会と「核の冬」の予測
核兵器廃絶の草の根運動
科学を市民の手に
Ⅴ 「生きた科学」を学ぶ
1「科学教育論」に学んで
干からびた科学の体系
ランジュバンの言葉(1)――教条的教育批判
ランジュバンの言葉(2)――科学史の教育的価値
ランジュバンの言葉(3)――起源にさかのぼる意義
学生が自ら考える授業
教育基本法と大学の一般教育
「群馬大学方式」の学生物理実験
学習指導要領にみる文部省の物理教育観
石原純の科学教育観
2「理科離れ」と学生たち
50年前にはこんなにすばらしい学習指導要領があった!
1950年代後半に始まる学習指導要領の変質
科学史の常識の欠落
学生の感想から
「理科離れ」を生む土壌
学生の知性は健全
脈々と続く1947年の理科教育の精神
子どもに「生きた科学」を
[担当からのコメント]
コペルニクス的転回という言葉があるように、科学的発見はときに社会を大きく変革する力を持っています。体系化された科学的知見の裏に潜む先人たちの偉大な発見のドラマ、その旅の扉を開く本書をどうぞごゆっくりお楽しみください。
[著者略歴]
滝沢俊治(たきざわ としはる)
群馬大学名誉教授。1935年長野県生まれ。1958年東北大学理学部物理学科卒業。著書に『熱量測定・熱分析ハンドブック』(日本熱測定学会編・分担執筆、丸善)『視点 オピニオン21――教育・社会教育・スポーツ学編』(上毛新聞社編集、発行・分担執筆)。『山頂はなぜ涼しいか―熱・エネルギーの科学』(日本熱測定学会編・分担執筆、東京化学同人)。訳書に『マグロウヒル・物理・数学用語辞典』(小野周、一松信、竹内啓監訳・分社訳、森北出版)。総説『リン脂質二重層内の疎水性水和水とCa2+の作用』(熱測定Vol.16,No.3)。解説『熱処理によって生じる生体物質―水系の多重準安定状態』(熱測定Vol.30,No.4)。
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