近世日本の世界像
(著) 川村博忠
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―知の結晶であり、歴史の情動でもある地図から見えるもの―
地図とは、その時々の人々の世界像を具現化したものである。これまで、世界地図の発達の歴史の中で、想像的な地図の段階からしだいに科学的で客観的な段階へと移行していくという地図自体の進展と内容の変化については、地図史として様々な研究がなされてきた。本書は、それらの成果を踏まえたうえで、これまであまり扱われることのなかった世界知識の受容という視点から、時代・地域を近世日本に絞り、政治・社会的な背景と関連させつつ世界知識の進展過程を総合的に展望し、より広範な視野から地理思想史としてその展開をとらえようと試みた作品である。鎖国下の日本人が世界知識を拡大する進展過程を、地図史、地理学史をはじめ政治、洋学(蘭学)、科学、思想などの歴史をふくめた既往の研究成果をもとに広い視野から概観した一書として、示唆に富む内容となっている。
[目次]
はじめに
1|近世以前の世界観
一 古代の神話的世界観
二 インド、中国の影響
三 三国世界観の形成
2|西洋人との出会い
一 三国世界観からの脱却
二 屏風に描かれた世界
三 朱印船による交易
四 旧大陸図にみる交易
3|イエズス会による西洋知識の紹介
一 在華イエズス会士活動の余波
二 『坤輿万国全図』の衝撃
三 朝鮮製の中華系世界図
4|鎖国後に長崎で萌芽した世界地理学
一 最初の世界図刊行
二 西川如見の登場
三 新井白石のみた世界
四 体系的世界地誌書の誕生
5|禁書の緩和で広がった西洋知識
一 将軍吉宗による禁書令緩和
二 本格的な楕円形世界図
三 中国製地図の翻刻
6|蘭学──新しい世界観
一 蘭学の興隆
二 双円図の出現と展開
三 地動説の登場
四 蘭学者たちの世界観
7|海防──北辺の探検と地図
一 経世論と海防論の高まり
二 蝦夷地の探検と地図
三 世界地誌書・地図の飛躍的発展
四 官撰世界図の完成
8|公学化される蘭学
一 ゼオガラヒーによる世界知識
二 蘭学の公学化
三 洋学者たちの世界認識
9|急速な西洋接近
一 洋学への転換
二 遣外使節の西洋体験
三 方形世界図の出現
四 進化した楕円形世界図
10|民衆の空想的世界像
一 生き続けた仏教系世界図
二 三国世界観への執着
三 通俗版世界図
註
掲載図版一覧
あとがき
[出版社からのコメント]
江戸時代やそれ以前の人々の世界像は、現代でいえば私たちが宇宙に対して抱く姿と似ているかも知れません。様々な観測と研究によって日々宇宙の新たな姿が明らかになっているとはいえ、その全体像はもちろん、どの様な姿をしているのかということさえ決して定かではありません。その意味では、本書で扱われるテーマは現代の私たちにも当てはまるもので、また完全な世界像が構築されない限りは今後も当てはまり続けるものなのだろうと思います。人間の思想の根幹ともいえる世界に対する認識への知的冒険を、ぜひ本書を通じて多くの方に楽しんでいただければ嬉しく思います。
[著者プロフィール]
川村 博忠(かわむら・ひろただ)
昭和10年(1935)京城市に生まれる。昭和36年(1961)九州大学文学部史学科西洋史学専攻卒業。昭和40年(1965)広島大学文学部史学科地理学専攻卒業。山口大学教授を経て,現在,東亜大学名誉教授。文学博士。
主著――『江戸幕府撰国絵図の研究』『近世絵図と測量術』(以上、古今書院)、『国絵図』(日本歴史叢書44、吉川弘文館)。『江戸幕府の日本図・国絵図・城絵図』(吉川弘文館)、『江戸幕府撰日本総図の研究』(古今書院)。
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