水稲栽培を襲った2大ウイルス病―イネ縞葉枯病(ゆうれい病)とイネ萎縮病:―ウイルスとは何者か、全く新しいタイプの特製をもったウイルスの大発生への問い―
(著) 鳥山重光
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[商品について]
――明治30年頃から関東各地の水田で発生し、農家に甚大な被害を与えた稲縞葉枯病の病原体を媒介する存在として特定された昆虫は、次のどれでしょうか。
1.ヒメトビウンカ 2.ツマグロヨコバイ 3.セジロウンカ
正解は本書「第3章 栗林数衛技師による媒介昆虫の発見 第1節 稲縞葉枯病は昆虫が媒介する「萎縮性病害」」をご覧ください。
1960年代の日本の稲作は、関東以西の府県を中心に「縞葉枯病」の発生に騒然としていた。この深刻な状況の中でウイルスをテーマに研究活動をスタートさせた著者は、研究の中で縞葉枯病の病原であるイネ縞葉枯ウイルスと出会う。果たしてウイルスとは一体何なのか、縞葉枯病の大発生の裏にはウイルスが起こしたどの様なドラマがあるのか――本書は、長年植物ウイルスを研究してきた著者が、その成果である縞葉枯病の病原ウイルス究明の道のりを、ウイルスという謎多き生命体への問いとともに綴った植物ウイルス研究史である。
[目次]
序 章
参考文献
第1部 イネ縞葉枯病の突発的な流行と 媒介虫ヒメトビウンカ
第1章 わが国の稲栽培とウイルス病発生の背景
第2章 奇病,幽霊(ゆうれい)病の発生と原因究明
第3章 栗林数衛技師による媒介昆虫の発見
第4章 イネ縞葉枯病と経卵伝染
第5章 関東地方におけるイネ縞葉枯病の流行と防除対策
第6章 西日本一帯で異常発生したイネ縞葉枯病
第7章 1960年代イネ縞葉枯病の大流行とその背景
第8章 ウイルス病の大流行と農林省の調査・研究
第9章 ヒメトビウンカの発生生態と縞葉枯病伝播
第10章 地域別でみた縞葉枯病発生の妙
第11章 イネ縞葉枯病抵抗性品種の育成と利用
第12章 イネ縞葉枯病大流行の真相への問い
第2部 奇異なRNAウイルス Rice stripe virus
第1章 イネ縞葉枯病の“枝分かれ糸状粒子”
第2章 イネ縞葉枯ウイルス(RSV)の病原性の本体
第3章 イネ縞葉枯ウイルス粒子の電子顕微鏡像 ――その構造
第4章 糸状のウイルス粒子に結合しているRNA ポリメラーゼ活性
第5章 イネ縞葉枯ウイルスのゲノム構造と遺伝子
第6章 ポリメラーゼ遺伝子からみたイネ縞葉枯ウイルスの起源
第7章 世界各地に発生するテヌイウイルス属のウイルスとウイルス病被害
第8章 イネグラッシースタントウイルス: テヌイウイルス属の中の変りものか
あとがき
補 遺
高田鑑三の論文「萎縮病稲試験成蹟」(1895)の再評価
はじめに
第1節 稲萎縮病の原因解明のための調査・試験
第2節 「高田論文」にみる有害ヨコバイの同定, 命名に関する記述
第3節 滋賀県農事試験場が実施した稲萎縮病研究
第4節 西ヶ原農事試験場と稲萎縮病研究
第5節 福士貞吉博士と稲萎縮病研究
参考文献
補遺:おわりに
著者紹介
[担当からのコメント]
本書のメインテーマはイネ縞葉枯ウイルスですが、その根底にはウイルスという不思議な生命体への問いがあります。ウイルスの脅威に晒されている私たちですが、ウイルスを単なる病の元凶と見るのではなく、ひとつの生命体と見たときに沸き上がる様々な謎や不思議さについても、ぜひ目を向けていただければ嬉しく思います。
[著者紹介]
鳥山重光(とりやま しげみつ)
1939年生まれ。青森県現むつ市出身。東京農工大学・農学部卒。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了,農学博士。
1968~1986年:東京大学農学部(文部教官助手);1977-1978年,オランダAgricultural University, Wageningen (Dept. Virology) に留学。
1986~2000年:農業生物資源研究所,農業環境技術研究所(環境生物部,上席研究官)。
2001~2009年:明治大学農学部(非常勤講師);ウイルス学概論,植物ウイルス学,大学院特論担当。
主な研究業績内容:「イネ科植物のウイルス病とウイルスの分類学的研究」,「植物ラブドウイルスと転写酵素」,「イネ縞葉枯ウイルスの精製と病原性に関する基礎的研究」,「イネ縞葉枯ウイルスの糸状粒子に付随したRNAポリメラーゼ」,「日本産テヌイウイルスのゲノム解析;Tenuivirus属ウイルスの系統関係」,「遺伝子組換えイネ作出(共同研究)」など。1999年,日本植物病理学会賞受賞。
著書:『黎明期のウイルス研究――野口英世と同時代の研究者たちの苦闘』(創風社,2008年),『イネ科植物とくに野草に発生するウイルス病に関する研究』(東京大学出版会,1972年),『植物ウイルス事典』(分担執筆,朝倉書店,1983年),『Descriptions of Plant Viruses』(分担執筆,CMI/AAB:No.269,1983年;No.322,1986年),『農林水産研究文献解題 自然と調和した農業技術編No15』(分担執筆,農林水産技術会議事務局,1989年),『病害防除の新戦略』(分担執筆,全国農村教育協会,1992年),『生命科学を推進する分子ウイルス学』(分担執筆,共立出版,1992年),『Pathogenesis and Host Specificity in Plant Diseases, Vol 3, Viruses & Viroids』(分担執筆,Pergamon,1995年),『ウイルス学』(分担執筆,朝倉書店,1997年),『Plant Viruses in Asia』(分担執筆,Gdjah Mada University Press,1998年),『The Springer Index of Viruses』(分担執筆,Springer Verlag,2001年),『Viruses and Virus Diseases of Poaceae(Gramineae)』(分担執筆,INRA,2004年),『Virus Taxonomy』ICTVの第6~8次報告(分担執筆,Springer Verlag/Academic Press/Elsevier,1995~2005年)。
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